脳汁生活。

脳汁生活

脳汁足りてる?

もう皮靴は履かないことにした。【#詩にしてみた】

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昼からビールを飲まないのは、まだ小さなためらいを感じているからなのかもしれない。

 

透き通る透明なグラスに注がれたスパークリングウォーターを喉で感じる。

ボトルは敷き詰められた氷の中で冷えていて、飲み干すまでは帰らないと決めた。

 

何度も見たはずのこの景色が色濃くくっきりと季節を持っていたことに気づく。

昔、学生の頃に『自分探し』と詠って少しだけかじった心理学を思い出す。

 

人は、その時の感情に支配されるものだー明るい気持ちならば、空は広く見えるだろう。沈んだ気持ちなら、空どころか、狭い足元しかその目には写らないだろう。

 

いつか行きたいと決めていた店だ。

 

メインストリートから少し離れて坂を上がった辺りのところ。

仕事仲間とも、あの人とも絶対に行かないと決めていた。

ましてや、仕事終わりや休日になんて行きたくもなかった。

ただ一人で、平日の午後の光に照らされるテラス席に腰掛けたいだけなのだが。

そしてここでは、世間を賑わす起業家の啓発書も、(今の私にぴったりだと思っている)軽やかなエッセイも、カフカも読むつもりはなかった。

 

ここでは仕事をすると決めていた。

――あんなにも焦がれた自分だけの仕事だ。

 

新卒で入社した会社を、秋の涼しげな風を感じる前に辞めた――無論、雀の涙ほどのボーナスはしっかりと取りに行ったが。

 

特段、ネガティブな理由があるわけではなかった。

上司も同期もクライアントも、仕事自体も、この街もどちらかといえば、好きだった。

それでも、心にふつふつと、遠足から持ち帰った潰れたイチゴをジャムにするかのようなー違和感が生まれていた。

 

いわゆる、引越しは考えていなかった――またきっと、どこかで違和感が生まれるだろうということは、読めていたからだ。

 

そして、それが定かではないとしても、そう感じてしまったのなら、それ以外にはそう感じられないが、私の性だ。

 

もうスマホを見なくてもいい。

ちょうど1年と少し前を思い出す。

汗だくになりながら、いろんな街を不格好なスーツに身を包み歩いていた。むしろ、走っていた。

いろんな街を見てきたはずなのに、どの街もどこか、朧げにしか覚えてない。

次の選考があるからと、小気味のいい雑貨屋さんが立ち並ぶ通りも、フォトジェニックなフェも入れなかった。

 

もう惜しむことをしない。

生まれながらにして得た自分の時間は、段々と誰かの時間と同じになり、いつしかそれは社会の時間となっていた。

もう、薄ぼけたアルバムの中にしかない、自分のためにただただ泣いていたようなあの、日々をようやく取り戻せるような気がしていた。

 

もう革靴は履かないことにした。

カツカツと響かせた音に、何の感情も示さなくなることを分かってなどいなかった。

履き心地よりも見た目を選んだあの日の自分から少しは変わっただろうか…

 

もう革靴は履かないことにした。

袖をまくったTシャツと、スウェット地のハーフパンツ、1460の思い出で履きつぶされたスニーカーで充分だった。

 

もう未来は考えないことにした。

どうせ分からないのなら、分かるものだけを抱きしめていく。

 

私は汗もかいていないグラスの、少し気の抜けたスパークリングウォーターを飲み干した。

 

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ぴょいぴょーい!