脳汁生活。

脳汁生活

無重力アパシーなる日々。

面接なんてもう、だいきらい、きらい、きらい、嫌い。【#ショートショート】【誰かの心の1ページ】

空を射止めたような皐月晴れであることを忘れるくらいにブラインドで遮られた部屋に、私たちは閉じ込められていた。

 

 

 

「自ら入ってきたんだぞ」と何度も繰り返せど、その非現実的で日常と深く乖離したそのシーンに慣れることはない。

 

 

額に滲む汗の扱いすらも、この部屋の中では分からなかった。何もかもが試され、図られ、確かめられる。

 

 

簡易的なテーブルと4つのイスだけが処置的に置かれたこの場所は、とても将来を定めきれるような器量を持ち合わせていない。

 

 

毒蛇が舌をチロチロとちらつかせ、第六感の粒子を脳幹に送っている。私が語る言葉を、目線の未来を、無意識の仕草を、吟味し、厳選し、ゆっくりと処理していく。

 

 

蛇は細身の肢体をくねらせ、私の左胸に忍ばせていたものと同じ400字の化身をじっくりと見つめる。やがて飽きてしまったかのように、その化身をぞんざいさが見え隠れする程度に丁寧に手元に置き、再び、じとりと、私に目を合わせる。

 

 

左右に広がった両目と目が合うと、反射的に身体と精神が硬直する。状況は逼迫し、餌を求めるばかりの金魚のような口元を晒してしまう。私は没言語欠操性を発症した。腔内から消え去った唾液が、脳幹と肺胞と喉に仕込んだ濾紙を一枚一枚溶かしていく。

 

 

私は何か二言、三言発したようだっだが、届くことなく闇に消えていった。蛇の顔をおそるおそる見上げた時にそう感じたが、わずかに眉を動かしただけだから、恐らく触れることすら出来ないようだった。その鈍い反応に、私は完全に萎縮してしまった。

 

 

それでも退屈しのぎか、奉仕のためなのか、毒蛇はシューっと息を吐きながら、ゆっくりと私との距離を詰めていく。どれほど近づいても、灰色の無機質な、無味乾燥とした存在しか感じることができず、恐怖を覚えた。

 

 

蛇は私の表面と内側を存分に舐め上げた後、冷え切り固くなった私の肌に毒牙を立てた。

 

 

鼓動と同じリズムを刻みながら、毒が私の中へと溶けてゆく。静かに私が死んでゆくのが分かる。毒された肢体は、私の言う事を聞くことなく、ただ皮膚と皮膚、骨と骨を繋ぐだけの部品となった。

 

 

言語と精神を奪われた私は、超感覚の沿線の淵に立ち、ただ時が過ぎるのを待っていた。そこら中の宙に浮かぶ60を頭で刻み、砂が堕ち切るのをひたすら待つことしかできなかった。

 

 

毒がじりじりと私を追い詰め始めた。冷たい汗が額を覆う。意図せず、肩は上がり、両ひざに置いた拳が震えだす。あと何度これを繰り返すのだろうと思うと、吐き気が込みあげ、うつむいた。呼吸がバランスを失くし、閉じられた空間の限られた酸素を必死でかき集める。崩壊寸前の自我はもう、どうして立っているのか、自分でもよく分からなかった。

 

 

毒蛇はついに禁忌を犯した。

 

 

陰湿で、使い古された、薄汚い毒牙を、私の心に突き刺した。

 

 

心が大きなうねりを上げて、悲鳴を上げて、泣き、喚き、叫んでいる。母親を亡くした子どものように、切られたトカゲの尻尾のように、のた打ち回っている。騒ぎは終着を迎えることなく、むしろ身体中の痛みと恥辱を引き連れて、より一層悲しみを引き立てた。

 

度重なる魂への侮辱は、無意識下の眠りに衝撃を与えた。持ち得る限りの激動で、その目に、情動と懺悔の情景を焼きつける。制止する手を、伝達から絶ってやるほどの音をたてながら、立ち上がり、私の化身を目の前で破り捨てた。

 

 

少しずつ肢体を後退させてゆく蛇は、自らの柔らかさを忘れたかのように、その場でただ、硬直していた。恐怖より驚きを湛えたその目の意味を知ることは、生活の中のあらゆる無駄よりも、無駄であると思った。

 

 

一瞬の高揚の後に訪れた静けさを存分に感じながら、私は静かに会釈をし、同業者にも伝えておくようにと、念を込めながら、目の端を見つめ、口を開いた。

 

「誰かに説明するために、納得してもらうために、生きているわけじゃない」



そして、舞台はいつもここから始まる。